会長挨拶

第68期会長就任にあたり

第68期会長 野田 哲男(大阪工業大学)

本会の会長を拝命することになり身のひきしまる思いである、なぜひきしまるのか?それは多くの先達が本会に投入なさった思いと時間とそれによって積み上げられた知の体系の重みにひれ伏すからである。その具体的な内容については、たとえば佐藤前会長の本記事において詳述されているので、本稿では自身の会員としての内面から話を展開してみたい。

私と本会との関わりは、自分が就職した次の年に、本会が前身の日本自動制御協会からシステム制御情報学会となったときにさかのぼる。ちょうど入社後の研究開発成果が溜まっていて、新しい学会で喋ろうと思って入会と登壇の申し込みをしたのがきっかけであった。その後も様々にお世話になり、法人格を取得する年には仕事で交流のある先生方と理事会で同席させていただいていた。本会の節目が自分の研究者人生の記憶に強く残っている。

そうなってくると今回の会長の節目がなにであるのか、なにもないのか、考えてみたくなる。そう思いながら本会の各種「数字」を見ていくと、たとえば正会員数、事業維持会員数、論文数、予算収支が減少トレンドにある。学生会員数は増加したが昨年度ないし今年度にピークアウトしたように見える。これは我が国の研究開発のメトリクスとも一致する推移である。背景にはおそらく学会に対するニーズの変化が存在する。これに追従するためには我々は本会の目標値をどこに置いていけばよいのであろうか。

昨今の報道や国家統計・国研ほかの予測は、日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じ、2048年には1億人を下回り、2060年には8700万人程度まで減少すると見込んでいる。また2023年の出生数は約76万人で前年より4万人減少したとされる。単純に線形予測すれば76÷4=19年後の2042年に日本人は生まれなくなり、最後に生まれた日本人の100年の余命が尽きたとき、すなわち2142年ごろ日本人は絶滅する。

もちろんこのような単純な外挿で日本と本会の未来を悲観的に憂いたいのではない。しかもこの手の予測は歴史上必ず外れる。鬼頭宏先生ほかのご研究によれば、縄文時代早期から現代に至る超長周期の日本列島の人口動態を推計できる。曰く、人口は波動のごとく増減しながら先史時代に60万人以下、有史時代に入り600万人、戦国時代1000万人、近世の江戸時代を経て、明治維新の3300万人に至るまでに2000年以上を要し、そこからの100年間で一気に1億人を超えた。

実は超長周期人口波動理論は、大災害・気候変動などの要因に対して、食料生産技術・貨幣経済技術・経済圏を拡大する流通技術などそれを乗り越えるイノベーションにより日本列島が抱えることのできる許容人口が変化し、それに合わせて実態人口が追従しているのが真相との学説である。そしてこれまでのところ必ず、新たな科学技術にもとづくイノベーションにより減少していた人口が増加に転じ、結局減少した以上に増加している。

8700万人にまで減少したところで明治初期の2倍以上の人口が居ることになる。日本人は明治期の3300万人で積極的に国際活動を行い学会を設立し科学技術を学び生み出していた。そして人口、経済規模ともに増大し戦後には高度成長期を迎え、終戦直後と1970年代には、なんと人口増加抑制策が議論されたほどである。

もう一点、我々が心すべき重要なことがある。人口が右肩上がりの時代に設計しうまく回っていた組織・制度・考え方が、これから一定期間継続する人口右肩下がりの時代に対応できるとはとても思えない。若手を取り巻く状況も我々が若手だった頃とは一変している。我々が当たり前にしてきたことをこの先繰り返すのは、不適切にもほどがある。

ここは考え方を切り替えて、戦略的に数字を下げていく方法を編み出す必要がある。これは衰退でも撤退でも敗退でもなく戦略的転進であり、新たな目標値に対し評価関数とモデルを一から作り直したうえでの逐次最適化でありモデル予測制御である。これからの時代にこれらを達成することは、過去に類例のない難題のひとつとなる。前述した「節目」とは、このことではなかろうか。

そもそも学会なるものの存在理由は、同好の士の議論の場の提供・維持である。そのために論文誌があり会誌があり各種学術集会がある。ああでもないこうでもないと議論を続けているうちは場は存続し、議論する必要がなくなれば場は消滅する。我々にとってはシステム・制御・情報各理論を探究し、それらの学際領域における難題に立ち向かうためコンパクトかつ濃密に科学技術を議論する場としての価値が最も求められているのであり、先の「難題」の答は当然出ていない。目標値を違わず制御則を書いて制御系を実装すれば、生産人口が減少し会員数がそれに連動したところで本会のレゾン・デートルとその存在にゆらぎはない。

本会が会員の皆様に愛され続ける場であるよう、会員・理事会・事務局が密に連携し、自由闊達な議論の継続をこそ請う。

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